
柏 英希
はじめての歯科矯正を検討している方が事前に知っておくべきポイントの、ほぼすべてが分かります。
多くの人にとって、歯科矯正は初めての経験になることでしょう。矯正治療をした歯が元に戻ってしまう後戻り矯正の例を除き、ほとんどの方は矯正治療を受けたことが無いはずです。
一生の間に歯科矯正を数回行う人は、あまりいらっしゃいません。つまり、はじめての歯科矯正は人生最後の歯科矯正になる可能性が高いということです。
生涯続くものだから失敗したくない、決して安くは無いお金をはらうのだから失敗したくない。当然の考えだと思います。
では、「最初で最後の歯科矯正」を考える際、どのようなことに注意をすればよいのでしょうか?
本ページでは一般歯科と矯正専門歯科の違いや、ワイヤー矯正とインビザライン矯正のメリットとデメリット。その他に、治療にかかる期間と費用、歯科矯正のリスク、施術を受ける適切な年齢などをご紹介していきます。
【医院選び】一般歯科と矯正歯科の違い

歯科医院は全国に約68,000施設あり、医師の数は100,000人※1を超えるそうです。その内の80%以上が「一般歯科」で「矯正歯科」は約4%※2という統計が出ています。
※1:2022年医療施設(動態)調査・病院報告の概況|厚生労働省
※2:2020年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況|厚生労働省
コンビニよりも多いと言われる歯医者ですが、歯科矯正に特化したドクターは全体の約4%しかいないことになります。一般歯科と矯正歯科の違いは以下の通りです。
一般歯科(総合歯科)
その名の通り一般的な歯の治療を行う歯科医院です。虫歯治療や入れ歯治療が主な診療科目で、歯のお悩み解決に利用する際、最もポピュラーな歯医者です。
矯正歯科
歯並びを整える治療を行う歯科医院です。矯正治療の弊害になる虫歯の治療などは行いますが、原則としては、歯科矯正を専門的に治療するための歯科医院となります。
一般歯科は矯正治療してはいけない?
一般歯科が矯正治療をしてはいけないかというと、そうではありません。少なくとも日本では、一般歯科でも矯正治療を行うことが可能とされています。歯科医師の資格を持ってさえすれば、例え専門でなくても、矯正治療を行うことが可能なのです。
ただし、歯科矯正は専門的な知識と技術、経験を要する分野です。
そもそも歯科医師自体が専門性の高い業種ではありますが、虫歯の治療と歯科矯正では、さらに必要とする技術と知識が異なります。
ワイヤー矯正ならば、前回の検診から歯がどのくらい移動したかを見て矯正装置の調節します。その際ドクターに求められるのは、長年の経験則に基づいた技術に他なりません。
インビザライン矯正であれば、3D光学スキャナーによる患者さまの歯並びを見て、どのような治療計画(クリンチェック)にするかを検討します。どれほど緻密な治療計画を立てるかは、やはり医師の経験と技術がものを言います。
結論として、矯正治療を希望されるのなら、一般歯科ではなく矯正歯科を選んでいただいた方が賢明と言えるでしょう。
【矯正の種類】ワイヤー矯正とインビザライン(マウスピース矯正)の違い

続いては矯正の種類について。
多くの場合、歯の矯正では「ワイヤー矯正」か「インビザライン」のどちらかを選択することになります。
ワイヤー矯正とインビザラインの違いは以下の通りです。
ワイヤー矯正
ワイヤー矯正は、歯の表側または裏側にブラケットと呼ばれるワイヤーを取り付けることで、歯並びを矯正する方法です。
分類としては、歯の表側に装置を取り付ける「表側矯正」と、裏側に取り付ける「裏側矯正」があります。
ブラケットには種類があり、主に金属性のメタルブラケットとセラミックやプラスチック製の審美ブラケットを選ぶことができます。
歯の表側に装置を取り付ける「表側矯正」の1種類として、目立たないプラスチック製のブラケットなどを使用する方法は「審美矯正」とも呼ばれます。
歯科矯正の中で最もスタンダードな治療法がワイヤー矯正です。
インビザライン(マウスピース矯正)
インビザラインは「マウスピース矯正」の一種です。
はじめに専用の機材で口腔内を3Dスキャンし、透明なマウスピースを数十枚作成します。作成したマウスピースは1枚1枚が少しづつ違う形をしていて、1枚目のマウスピースよりも2枚目のマウスピースの方がきれいな歯並びに近い形状をしています。
およそ7日ごとのマウスピースを交換により少しづつ歯が動き、次第に理想とする歯並びに近づけることができます。
「少しずつ歯を動かしていくため痛みが少ない」ことや「装置自体が透明なため目立たない」などの理由により、特に近年では人気の高い歯科矯正の方法です。
マウスピース型の矯正装置は、インビザラインの他に「キレイライン」や「アソアライナー」などがありますが、数あるマウスピース矯正の中で最も利用者が多く、高い信頼性を誇っているのがインビザラインとなります。
以下、ワイヤー矯正とインビザラインの比較表です。掲載している項目は、特に患者さまからのご質問が多いものを抜粋しています。
見た目 | 痛み | 症例による治療の可・不可 | 治療期間 | 1日の装着時間 | 取り外し方法 | 歯磨き | 会話 | 通院頻度 | 金属アレルギー | |
インビザライン![]() | 目立ちにくい | ほとんど痛まない | ほとんどの症例が治療可能 | 3カ月~3年 | 20~22時間 | 自分で取り外しが可能 | 装置を取り外して通常の歯磨きが可能 | 違和感なし | 1カ月~3カ月に1度 | アレルギーなし |
ワイヤー矯正![]() | 金属が目立つ | 締め付けるような痛みあり | ほとんどの症例が治療可能 | 3カ月~3年 | 24時間 | 自分での取り外しは不可 | 専用の歯ブラシが必要 | 多少の違和感を覚える | 1カ月に1度 | アレルギーあり |
上記の表を見て分かる通り、最新の技術では目立たず痛みの少ないインビザラインを選ばない理由がほぼ無いと言えます。
【費用】歯科矯正にかかる費用は30万円~120万円ほど

歯科矯正にかかる費用は30万円~120万円ほどと、かなり大きな開きがあります。金額が違う主な要因は下記の通りです。
- 矯正の範囲による金額の違い
- 治療法による金額の違い
- 歯科医院による金額の違い
それぞれご説明いたします。
矯正の範囲による金額の違い
金額が異なる要因のひとつは矯正の範囲です。
端的に申し上げれば、部分的な矯正で済む症例は安く済みます。一方で、歯を全体的に動かす必要がある場合は高額になります。また、抜歯の有無によっても金額が変わります。
部分的な矯正を「部分矯正」と呼び、すべての歯を動かす矯正を「全顎矯正」と言います。
それならば誰もが部分矯正を希望されると思いますが、残念なことに部分矯正が可能な症例は限られています。
- 軽度の叢生(そうせい)
- 軽度のすきっ歯
- 前歯部分の軽度なねじれ

柏先生
どの症例に置いても「軽度であること」がポイントです。また、抜歯が必要な場合は、原則として部分矯正ではなく、全顎矯正になります。
- 抜歯の必要がある
- どの症例においても重度の場合
- 歯全体の噛み合わせに問題がある
- 前歯を移動させるスペースが3mm以上不足している場合

柏先生
部分矯正が可能な症例にも関わらず全顎矯正を勧めることはありませんが、部分矯正が可能なケースは意外と少数で、全顎矯正になることの方が多くなります。
治療法による金額の違い
どの治療法を選ぶかでも、歯科矯正にかかる費用が異なります。
インビザラインと金属ブラケットのワイヤー矯正に大きな差はありませんが、表側ワイヤー矯正の審美ブラケットと、裏側ワイヤー矯正は多少金額が高くなる傾向にあります。
下記は、治療法ごとの目安となる金額です。
部分矯正 | 全顎矯正 | |
インビザライン![]() | 30~60万円 | 80~100万円 |
ワイヤー矯正(表側・金属)![]() | 20~60万円 | 70~90万円 |
ワイヤー矯正(表側・審美)![]() | 25~65万円 | 80~100万円 |
ワイヤー矯正(裏側・金属)![]() | 40~75万円 | 90~150万円 |
歯科医院による金額の違い
まず、原則として歯科矯正は保険が適用されません。歯科医院ごとに自由な価格設定ができる自費診療となるため、医院ごとに費用が変わります。
気を付けたいのは、いわゆる「安かろう悪かろう」のサービスです。どの業種にも、薄利多売で利益を得る企業は存在します。利益を求めることが悪とは言いませんが、結果として患者さまに取り返しのつかない損害を与えることは、あってはならないことです。
もちろん、高ければよいというわけではありません。良心的な価格で高い質のサービスを提供する医院もあれば、高額なのに質の低い医院もあるでしょう。
目星をつけている医院の口コミを見たり評判を聞いたり、まずは相談に行ってみて、よく説明をしてくださるドクターなのかリサーチしてみることをお勧めいたします。
【治療期間】歯科矯正にかかる期間は6カ月~2年6カ月ほど

歯科矯正にかかる期間は、部分矯正で6カ月~1年ほど。全顎矯正で1年~2年6カ月ほどとなります。期間については、ワイヤー矯正とインビザラインで大きく違うわけでは無く、症例や移動する歯の本数によって大きく差が出ます。
部分矯正
歯の一部を矯正する方法
全顎矯正
すべての歯を矯正する方法
部分矯正 | 全顎矯正 | |||
抜歯なし | 抜歯あり | 抜歯なし | 抜歯あり | |
インビザライン![]() | 6カ月~1年 | – | 1~2年6カ月 | 1年6カ月~3年 |
ワイヤー矯正 (表側) ![]() | 6カ月~1年 | – | 1~2年6カ月 | 1年6カ月~3年 |
ワイヤー矯正 (裏側) ![]() | 6カ月~1年 | – | 1年~2年6カ月 | 1年6カ月~3年 |
ワイヤー矯正もインビザラインも、それぞれの装置を使って歯を移動させることにより矯正を成功させます。そのスピードは1カ月に1.0mm程度とされていて、それ以上の速度で歯を動かすことはできません。月日をかけることにより歯の移動量を積み重ね、予定した位置まで辿り着くことができます。
前述した通り、症例や治療範囲、移動させる歯の本数によって治療期間は大きく変動します。そのため、一概に「〇〇年〇〇カ月の期間が必要です」と言い切ることは難しいものがあります。
【矯正治療完了後】保定期間について

歯科矯正は治療装置が外れたら完了ではありません。その後に保定期間と呼ばれるものが必要となります。
保定期間について
保定期間とは、歯科矯正で使用した装置とは別の「保定装置(リテーナー)」を使い、矯正した歯が元の位置に戻らないように定着させる時間のことを指します。なぜ必要かと言うと、矯正装置を使っての治療が終わった直後は、歯茎や骨が動いた歯に対してしっかりと馴染んでいないため、歯並びが元に戻りやすい状態になっているからです。いわゆる「後戻り」を防ぐために必要なアフターケアということになります。ワイヤー矯正であれインビザラインであれ、この「保定」という工程は欠かすことができません。
保定期間に要する時間は?
要する期間は治療範囲や症例によって変動しますが、一般的に治療にかかった期間と同程度とされます。つまり、6カ月~2年6カ月ほどの保定期間が必要ということです。特に矯正装置が外れてから3カ月~4カ月の間は、歯の根っこを覆っている歯根膜が再編成している最中のため、最も元に戻りやすい期間として注意しなければいけません。
また、期間中は1日20時間以上の装着を推奨しています。これを下回ると、せっかく矯正治療で動かした歯が元に位置に戻ってしまう可能性があります。
保定装置を着けているときの痛みは?
保定装置は歯科矯正の装置とは違い、歯を動かすための器具ではないので、矯正治療中のような痛みはほとんどありません。ですが、長期間リテーナーを外してしまうと、再装着した際に歯が押し戻されるような違和感を覚えるかもしれません。
保定期間には何をするの?
保定期間中は、口に「リテーナー」と呼ばれる保定装置を装着します。保定装置の種類は下記の通りで、見え方や手入れの仕方は装置によって異なります。
リテーナーは大きく分類すると、取り外しが可能な「可撤式リテーナー」と、取り外しができない「固定式リテーナー」の2種類があります。
ベッグリテーナー(可撤式)
取り外しができる保定装置。表側が金属のワイヤー、裏側がプラスチックでできています。最もポピュラーな保定装置で、歯全体にワイヤーがかかることが特徴です。
ホーレーリテーナー(可撤式)
取り外しができる保定装置。ベッグタイプ同様に、表側が金属のワイヤー、裏側がプラスチックでできています。相違点は、ワイヤーが全体では無く前歯にしか無いこと。主に前歯部分の後戻り防止として使用します。
クリアリテーナー(可撤式)
取り外しができる保定装置。透明なプラスチック製のマウスピースです。歯型を元に作成される、歯全体を覆う装置になります。透明な素材のため、目立ちづらいことが最大の特長です。
リンガルリテーナー(固定式)
取り外しが不可の保定装置。歯の裏側にワイヤーで固定するタイプの器具です。リテーナーの位置が舌側になるため、外見上はほとんど目立ちません。
【リスク】歯科矯正に伴うリスク

歯科矯正は、あくまでも人体を扱う医療行為です。そのため、治療の過程において望まないリスクがあることは否めません。
しかし、デメリットやリスクを深く考えすぎるあまり矯正の機会を失ってしまうことは、患者さまにとっての最適解ではありません。事前にリスクやデメリットを理解し、不安を解消したうえで治療に臨むことが、理想的な矯正治療の第一歩となります。
当院では、治療を始める前には必ずカウンセリングを行います。その際、患者さまにこれからの治療に置いての不安や不明点がないよう、懇親的で丁寧なご説明を心がけております。
初診のご相談やカウンセリングは無料で行っておりますので、ご希望の方はお気軽にご相談ください。
歯の移動・矯正装置による痛み
歯を動かす歯科矯正は多少の痛みを伴います。個人差や使用する装置によって強弱はありますが、ワイヤー矯正よりもインビザラインの方が痛みは少ないとされています。
一般的には、装置を着けて調整を行ってから4~5時間ほどで痛みが発生します。2日~3日ほどで痛みがピークに達しますが、徐々に解消されていきます。場合によっては痛み止めなどを処方することもあります。
当院は痛みの少ないインビザライン矯正のみを行う歯科医院ですが、患者さまから「痛み止めを出して欲しい」と頼まれたことはほとんどありません。個人差はあると思いますが、矯正装置がインビザラインの場合、さほど痛まないことの方が多いと言えます。
矯正装置周辺の虫歯・歯周病
矯正装置を着けることでブラッシングがしにくくなり、歯磨きが不十分なことから虫歯や歯周病になってしまうことがあります。しかし、矯正治療の最中であっても予防は可能です。
当院では、治療中の患者さまに対する徹底した虫歯・歯周病予防のケアを行っております。どうぞご安心してご来院ください。
歯根吸収(しこんきゅうしゅう)
歯根吸収は、文字通り歯の根っこが吸収されて短くなってしまう症例です。矯正治療のリスクとしてしばしば挙げられますが、例としては稀なもので、歯がぐらぐらするほど重症になることはほとんどありません。
【年齢】歯科矯正に適した年齢は?

歯科矯正に年齢制限はありません。たまに「歯科矯正は子供がするもの」や「40歳を過ぎたら矯正治療はできない」と認識されている方がいらっしゃるようですが、そのようなことはありません。
小さなお子さまの場合、上下の前歯が永久歯に生え変わる8~9歳頃から治療を始めることができます。また、ご年齢の上限は無く、当院では60歳を超える方が矯正治療を受けたケースもございます。
この記事のまとめ

柏 英希
- 一般歯科ではなく矯正歯科を選んだ方がよい
- 矯正の種類は大きく分けて「ワイヤー矯正」と「インビザライン(マウスピース矯正)」がある
- 歯科矯正にかかる費用は30万円~120万円と差があり、治療範囲や治療法などにより異なる
- 歯科矯正にかかる期間は6カ月~2年6カ月ほどで、主には「部分矯正」か「全顎矯正」により異なる
- 矯正治療が完了した後は、「保定期間」と呼ばれる歯並びを定着させる期間が必要
- 歯科矯正治療には「痛み」、「虫歯」、「歯周病」、「歯根吸収」などのリスクを伴う ・歯の矯正は8歳~9歳頃から開始することが可能で、年齢の上限はない
ほとんどの人にとって、歯科矯正は一生に一度の経験です。
本記事を読んでいただいた方が、しっかりと予備知識を得た上で矯正治療に臨んでくださることを願っています。